「ルドルフ2世の驚異の世界展」は、ハプスブルク家稀代のコレクターで趣味人、ルドルフ2世の世界観が垣間見える、天文学、美術、錬金術のワンダーランド!

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「ルドルフ2世の驚異の世界展」チラシ
「ルドルフ2世の驚異の世界展」チラシより引用

16世紀末から17世紀初頭にかけて、神聖ローマ帝国皇帝としてプラハに君臨したルドルフ2世(1552~1612)は、芸術のみならず天文学や錬金術といった当時の学問全般に関心を寄せた、稀代のコレクター・趣味人として歴史に名を残しています。

今回は東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催されている「ルドルフ2世の驚異の世界展」に行ってきましたので、レビューします!

なお、宣伝の印象とは異なり、大人向けの教養という要素の強い展覧会でしたので、エンタメ系を期待していくと少々期待はずれ?かもしれません!

「ルドルフ2世の驚異の世界展」

場所:東京・渋谷の東急本店横 Bunkamura ザ・ミュージアム

開催期間:2018年1月6日(土)〜3月11日(日)(1/16と2/13のみ休館)

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ルドルフ2世とはどんな人物? ウィーンからプラハに首都を移した16世紀末の神聖ローマ帝国の皇帝!

プラハに宮廷を構え、神聖ローマ帝国皇帝として君臨したハプスブルク家のルドルフ2世(1552~1612)は、稀代の収集家として知られています。16世紀末から17世紀初頭、彼の宮廷には世界各地から優れた人物たちが集結し、芸術作品、あるいは科学機器などのあらゆる優れた創作物、更には新たに発見された珍奇な自然物などが集められ、文字通り「驚異の部屋」とでも呼ぶべき膨大なコレクションが形成され、当時のヨーロッパの芸術文化の一大拠点ともなりました。

「ルドルフ2世の驚異の世界展」パンフレットより引用

上記の通り、ルドルフ2世は神聖ローマ帝国皇帝ですが、政治には関心がなく、専ら自身の興味のある芸術・学問に没頭し、膨大なコレクションを作り上げたコレクターとしてよく知られています。今回の展覧会には、「究極の趣味人のワンダーランド」というコピーがついていますが、皇帝だからこそこのようなコレクションが可能となったわけです。

ルドルフ2世は幼少期をスペインの宮廷で過ごし、高い教養を身につけるも、その頃から神経質な傾向があったようです。1576年に父マクシミリアン2世の死去を受けて、24歳の時に神聖ローマ帝国皇帝に即位します。1583年に首都をウィーンからプラハに移し、独自の宮廷文化を発展させます。

首都がプラハとなったのはルドルフ2世の一代限りでしたが、ルドルフ2世は芸術・学問を大いに保護・奨励したため、プラハには芸術家や科学者、錬金術師などが集まり、プラハは文化の中心都市として繁栄しました。

ルドルフ2世は政治には関心がなく、在位中は専ら自分の興味にある学問や芸術、収集に没頭しましたが、晩年は精神疾患の症状も悪化し、従来から仲が良くなかった弟マティアスに皇帝の座を追われ、失意のうちに亡くなったということです。

「ルドルフ2世の驚異の世界展」の内容は?

「ルドルフ2世の驚異の世界展」では、ルドルフ2世の人物に関する展示よりも、ルドルフ2世の収集したコレクションや当時の最先端の科学に関する展示がメインでした。天文学や錬金術といった当時の最先端の科学についての展示、ルドルフ2世のコレクターとしての側面を示す美術、工芸品などの展示がありました。

ルドルフ2世とプラハ

ルドルフ2世は首都をウィーンからプラハに移しており、理由は種々あるようですが、一番の理由は、やはりプラハが気に入ったのだろうと思います。ルドルフ2世はこれだけの好奇心の旺盛な人物ですが、プラハに引きこもって旅行にも出かけなかったといいます(代わりにお抱え画家に旅行に行かせて各地の風景画を描かせた)。

プラハとルドルフ2世は切っても切れない深い関係があります。プラハが文化の中心都市として繁栄したのもルドルフ2世がプラハで学問・芸術を奨励したからでした。ルドルフ2世がいなければプラハは異なる都市になっていたかもしれません。

元々プラハはルドルフ2世を引きつけるものを持っていたのでしょう。プラハは現代に至っても、夢幻的な雰囲気の強く残っている街です。現代ではかなり観光地化していますが、それでもこれほど迷路のようで幻想的な雰囲気のある街はプラハ以外にはそうありません。

まさにプラハはカフカの世界そのもののような街と言ってもいいかもしれません。科学だけでは割り切れない、オカルト・呪術的なものが説得力を持つような雰囲気を持っています。その点もルドルフ2世の当時の世界観とよく合っています。

ルドルフ2世がプラハで自分の世界を夢想したように、プラハは想像力の強い人間を引きつけるものがあるのかもしれません。

当時の最先端科学〜天文学、錬金術

ルドルフ2世の時代は、科学と呪術・オカルトが分離していなかったので、天文学は占星術、化学は錬金術と渾然一体となっていました。

ルドルフ2世は芸術も大変好みましたが、自然科学にも大変関心を持っており、この世のあらゆる神秘、不思議を知り尽くしたいという欲求があった人物のように思えます。当時は、あらゆる分野が細分化し、区別されている現代とは全く異なる世界観だったのだろうと思います。

17世紀初頭は、望遠鏡による天体観測が始まったり、ガリレオが地動説を唱えるなど天文学が飛躍的に発展した時代でもありました。ルドルフ2世はティコ・ブラーエ(1546~1601)やヨハネス・ケプラー(1571~1630)を宮廷に呼んでお抱え天文学者としました。

この二人の出会いが、天文学を変える大きな発見のきっかけとなりました。ケプラーはブラーエの残した肉眼による膨大な観測データを元に、「ケプラーの法則」を発見しました。

会場では、ケプラーの「コペルニクス的天文学要約」やガリレオの「天文対話」といった当時の書籍が展示されていました。これらは所蔵が国立天文台や大学図書館などとなっており、日本にあるものなのですね。書籍なので、世界中にいくつもあるのでしょうが。

収集物〜アルチンボルドの野菜画などの絵画・美術品の他、動物ランドも!

ルドルフ2世は多数の美術品コレクションを収集しました。また、アルチンボルド、スプランガー、ファン・ラーフェステイン、ルーラント・サーフェリーといったお抱えの宮廷画家がプラハで様々な作品を生み出しました。

特に有名なのが、野菜のだまし絵風の肖像画で有名なアルチンボルドでしょうか。展覧会の目玉としてポスターにもなっています(冒頭写真参照)。この絵は「ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像」というのだそうです。制作年は1591年とのこと。教養の高いルドルフ2世は、アルチンボルドのような知的な風刺画を好んだのではないかと思います。

フーフナーヘルの細密画「人生の短さの寓意(花と昆虫のいる二連画)」(1591年)も印象的でした。小さな細密画の連画で、題名の通り、天使と骸骨、蝋燭と燃え殻、といった人生の短さを象徴するアイテムが対比して描かれています。

ルドルフ2世は世界中からヨーロッパにいない珍しい動物を収集し、宮廷には動物園も作っていたとのこと。宮廷画家サーフェリーはこの動物園にいた様々な珍しい動物たちを描いており、どのような動物がいたのかを推測することができます。

今では絶滅してしまった鳥ドードー(「不思議の国のアリス」に登場する鳥)も所有していたとのこと(剥製かもしれませんが)。ドードーはかつてモーリシャス諸島に生息していた、飛べない鳥ですが、乱獲により絶滅してしまいました。

自分だけの博物館・美術館「驚異の部屋」!

ルドルフ2世は、収集した作品、自然物、科学機器などを展示するスペースを宮廷内に作りました。いわば自分専門の美術館、博物館を持っているようなもので、ルドルフ2世はこの展示スペースを通ってプライベートエリアに行くことができました。

こうした世界を凝縮するような展示室を「驚異の部屋」(クンストカンマー)と言うのだそうで、15〜18世紀にヨーロッパで貴族や有力者の間で作られたそうです。部屋には世界中の珍品が展示され、分野を問わず珍しいものなら何でも陳列されたそうです。

当時「驚異の部屋」で陳列されていたようなものとして、「イッカクの牙」が展示されていました。当時は架空動物ユニコーンの角として、熱心に収集されたそうです。

ルドルフ2世の展示室はまさに「驚異の部屋」といったようなものだったでしょう。ルドルフ2世の収集物は当時の「驚異の部屋」のように、美術館・博物館の両方の要素が入っており、どちらかだけと言うことはできません。美術館と博物館のカテゴリーが分かれてしまった現代は、むしろ窮屈かもしれませんね。

ルドルフ2世の膨大なコレクションは現在どこに?

ルドルフ2世の残した膨大なコレクションですが、現在はどこに保管されているのでしょうか?ルドルフ2世のコレクションはルドルフ2世の死後、散逸してしまったそうです。

そのため、現在、ルドルフ2世のコレクションを正確に把握することはできません。一部はリヒテンシュタインに目録が残っているそうなのですが。

そのためか、この展覧会はルドルフ2世のコレクションの展示なのかと思いきや、多くの美術作品に「ルドルフ2世が所持していた可能性のある作品」というような注意書きがついています・・・。あくまで、ルドルフ2世と当時の世界観を体験する、というコンセプトのようです。

最後は現代美術家フィリップ・ハースによる3Dアルチンボルドの作品!

現代美術家フィリップ・ハースによる3Dアルチンボルド

展覧会では、最後のコーナー、現代美術家フィリップ・ハースによる3Dアルチンボルドの作品のみ、写真撮影が可能でした。左から春、夏、秋、冬のアルチンボルドです。冬は枯れ枝でちょっと怖いですね☺️。

こちらが春と夏。生き生きしてます!

現代美術家フィリップ・ハースによる3Dアルチンボルド

こちらが秋と冬。ちょっとしかめっ面??

現代美術家フィリップ・ハースによる3Dアルチンボルド

こちらもフィリップ・ハースの作品。ヨース・ド・モンペル2世による「夏の寓意」に基づいた模型だそうです。17世紀前後のヨーロッパでは、このような人物を隠した風景画が流行っていたそうです。

現代美術家フィリップ・ハースによる作品

最後に。内容は地味なものの、16〜17世紀の壮大な世界観が垣間見えた「知のワンダーランド」でした! エンタメではなく大人向けの教養という印象の展覧会です!

「ルドルフ2世の驚異の世界展」は、16〜17世紀のヨーロッパの「知」の最先端を集結したような展覧会でした。「究極の趣味人のワンダーランド」というよりは「知のワンダーランド」という印象を受けました。

ルドルフ2世が芸術、自然科学に没頭してコレクションを作り上げたさまは趣味の範囲を超えています。皇帝だからできることでしょうが・・。

また、自然科学やオカルト、芸術が渾然一体となった「知」のあり方にも感銘を受けました。まさに「世界」という感じがします。

現代では、芸術と科学が切り離されていますし、美術館と博物館はそれぞれ守備範囲が分かれています。現代では体感しにくくなった「世界の森羅万象」や「世界の神秘」というものを改めて思い起こさせてくれた気がします。

というわけで、知的教養面ではなかなか興味深い展覧会だったのですが、はっきり言ってしまうと、内容は「地味」です!!一つ一つの展示物は興味深いものがあるのですが、全体としてはかなり地味・・です。目玉はアルチンボルドくらい。

そのアルチンボルドがポスターに使われ、「驚異の世界展」などと謳っているので、オモシロ展覧会ではないかと思ってしまう人がいるのではないかと思います・・。筆者も最初はそう思ってました。あらかじめネットで調べておいたので、勘違いはしなくてすみましたが。

なので、エンタメ系展覧会を期待してしまうと、結構がっかりすると思います。あくまで大人向けの教養、といった内容の展覧会です。全く子供向けではないので、誤解させるような広告をしないでほしいと思いますが・・。

しかし、人目をひくような広告にしないと誰も来ませんから、仕方ない面はありますが。日本は、内容を広告で誤魔化すのがうまいというか、割と何でもそうですよね。展示物としては地味すぎるのを、広告で何とかカバーしているような感じです。絵画とかの外来品の展覧会にはよくありがちなことですが。

展示の仕方に工夫をこらしたり、凝った音声ガイドを作ったり、説明を詳しく書いたり、(地味さを補うような)様々な工夫が見られたのは、さすが日本ならではだと思います。日本はこの手の工夫は惜しまないですね、海外とは違うところで、ここは評価できます。

展示量は、少なくもないが、多くもないという印象。音声ガイド付きでゆっくり見て回って1時間半あれば十分という感じでした。入館料は大人一般で1,600円で、少し高いと思いましたが、外来品の展覧会ではこんなものでしょうか。

最後はちょっと辛口になってしまいましたが、内容自体は興味深い展示会でした。教養を深めたい方は是非行かれてはいかがでしょうか!

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