小津安二郎作品は4Kの鮮明な映像で見て真価が分かる?!「小津4K」を見て改めて小津作品について考えます

2018年6月〜7月、「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」が東京の映画館で上映されました。

「小津4K」では、小津安二郎の生誕115年記念企画として、小津7作品の4Kデジタル修復版が上映されました(全国のいくつかの映画館でも順次上映)。

今回の4K上映は、「晩春」「麥秋」「お茶漬けの味」「東京物語」「早春」「東京暮色」「浮草」の7作品でした。

筆者は特段小津作品について詳しいわけではありませんが、小津作品は4K画像を映画館のスクリーンで見てこそ本当の良さが分かるものだな〜と改めて思いましたので、「小津4K」の感想と小津作品について書いてみたいと思います。

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小津作品は4Kで見てこそ真価が分かる?!

4K上映で見たのは、7作品のうち「晩春」と「東京暮色」です。率直な感想として、小津作品は綺麗な画像を映画館の大きなスクリーンで見て、初めてその真価が伝わるものだと思いました。映画なので当然ではあるのですが、改めて実感した訳です。

小津作品の映像美も、4Kの大画面で見てこそ堪能できると改めて思いました。小津作品は、ストーリーそれ自体というよりは映像、音楽、台詞など多くの要素が総合的に合わさって映画という総合芸術の魅力を作り上げているので、映像が良くないと、魅力が半分も伝わらないような気がしました。

「東京物語」を古い画像かつPCでなどの小画面で見ると、映画の偉大さは分かるものの、今ひとつ間延びした感じがあって、いかにも古い映画という感じを否めないのですが、これがもし4Kで映画館のような大画面だったら、印象が全く異なること請け合いです。

画像のデジタル修復でこれほど印象が変わるのかというのは驚きでした。古い画像だと、いかにも古い映画という感しかありませんが、4Kだと、画面が鮮明で役者も生命感を感じるくらいにイキイキしているように見えます。

4Kだと全然古い映画という印象を与えないです。これは、もちろん元の映画が素晴らしいからなのですが、ここまで修復した技術力と努力にも敬服します。

小津作品をいくつか見ただけでも、小津安二郎は本物の天才監督と分かるくらいです。映画という総合芸術にふさわしい監督で、「映画が芸術」というのにふさわしい監督です。今更言うまでもないのですが。

小津作品のような映画がなかったら、映画が芸術ということに説得力がなかったかもしれません(かつて映画は芸術か否かと言う議論が盛んな時代がありました)。小津作品は映画を芸術に引き上げた映画の一つなのだと思います。それほどインパクトのある映画です。

小津作品が海外受けする理由

また、小津作品は、非常に日本的でありながら、海外受けする映画の最たるものではないかと思います。実際、小津作品は海外の評価がとても高いですね。特に、映画監督からの評価がとても高いですが、それも頷けます。

というのも、小津作品、特に「東京物語」は、おそらく多くの映画製作者が「こういう映画を作ってみたい」と思わせるような作品だと思うからです。「東京物語」ほど映画製作者をインスパイアする映画作品はそう多くないと思います。

むしろ、一般観覧者よりも映画製作者の評価の方が熱烈なのではないかと思うくらいです。そして、小津作品ほど徹底的に日本的でありながら、海外受けの良い(外国で理解される)芸術も少ないのではと思います。

能など他の日本の伝統芸術だって海外からそれほど理解されているとは思えません。その意味では、小津作品はとても珍しい幸運な例とも言えます。

その意味では、以前書いた唐十郎作品などとは対照的と言えるかもしれません。唐十郎作品は、日本語と日本の社会背景などが分からないと真価が分かりにくいものだと思うので、これを外国人が本当に理解できるかは疑問のあるところです。

もちろんどちらが良い悪いではなく、作品の表現内容の違いですが、映画という普遍性を目指す性向のある表現芸術のジャンルでは、小津作品の特徴はプラスになっているとも言えます。

ところで、小津作品が海外(主に西欧)から受けが良いのは、作風と西欧的な価値観がうまくマッチしたからでしょう。小津作品は西欧的であるという評もあるそうですが、小津作品の作風は西欧人にとって理解しやすいものだと思います。

もちろん、小津作品そのものの題材や台詞や筋書きは純日本的であり、小津自身も日本の家族や日常を描いていることに何の疑念もないに違いありません。別に、小津自身が海外に受けるようにと思って製作した訳でもないと思います。

ただ、小津が作品の中で、即物的な事柄や日常生活を超えて、何か「普遍的なもの」を描き出そうとしていたことは明白です。それが、表面を超えた先に何かを見出そうとする西欧芸術の根底原理とシンクロしたのだろうと思います。

小津作品というのは、日本の家族を描いてはいますが、単なる描写がしたい訳ではなく、本当に描きたいものは「人間の姿」なのだと思います。更に言うと、「日本の家族」というのは言いたいことを言うための「ダシ」に過ぎないとも言えるかもしれません。

「小津4K」の予告動画で、「ぬくもりだの暖かさはごまかしである、自分は人生の本当の姿を描きたい」という小津のコメントが紹介されていますが、その通りなのだろうと思います。

小津作品は、家族の話を描いていてもラストは一人になる、みたいなエンディングが多くて、「所詮人間は一人であり、孤独である」、ということを言っているように思えてなりません。

こういう結末は、西欧の実存主義に通じるものがあるとさえ言っていいかもしれません。もちろん、小津がそれを意図しているとは思いませんが、「人生の本当の姿」を描いたらこうなった、それが西欧の価値観とうまくシンクロした、ということなのだろうと推測します。

何にしても、小津作品が、表面上のストーリーを超えて、何か普遍的な人間や人生の姿を表現してしまっていることは確実なことで、これが小津作品を第1級の芸術作品にしているのだと思います。

単に映像美とか演出のこだわりとかだけでは、ここまでの評価はなされなかったでしょう。しかも、実存的とも言える内容を、凄惨で激しい表現ではなく、徹底的な美のうちに表現した、というところに小津のユニークさ、圧倒的な個性があるのだと思います。

小津作品では、家族の姿を描いていても、偽善的な温かさを感じるという訳でもなく、かといってヒヤリとするような冷淡さを感じる訳でもなく、どちらかというとニュートラルな淡々とした客観的・外部的な視点で語られるのが特徴だと思います。

実存的なことを表現する作品の場合、どうしてもヒヤリとするような後味の悪さを感じることが多いのですが、小津作品ではヒヤリとすることもなく、かといって温かみを感じるという訳でもなく、何とも言えない不思議で絶妙な余韻を残すところがあります。

それがまた、小津作品の魅力となっているのだと思います。映画を見て、暗い気分になるのはあまり気持ちの良いものではありません。何とも言えない、表現しにくい余韻こそ、小津作品の大きな魅力で、他の作品と異なる特徴なのだと思います。

4K「晩春」の素晴らしさ

さて、今回、4Kで「晩春」と「東京暮色」を見た訳ですが、どちらも映像が素晴らしく印象的な作品でしたが、特に「晩春」は素晴らしい作品だと思いました。

「晩春」は言わずと知れた名作で、野田高梧との共同脚本、独自の撮影手法、原節子や笠智衆などの役者の起用といった、いわゆる「小津調」を確立した作品ですが、今更ですが、素晴らしい作品です。この作品全編に渡って漂う優雅さは、今の映画では表現できないでしょう。

混乱期の戦争直後にこれだけ徹底的に美にこだわり、美しいものしか画面に出さないという強い姿勢には、天才ならではのこだわりを感じます。

戦後の急速な価値観の転換の中で、お茶会や能といった日本の伝統芸能、京都の名所など、これでもかというくらいに日本の伝統的なものが盛り込まれていることに、小津の強い意志を感じます。

この作品は時節柄、GHQの検閲より一部修正された部分もあるそうですが、日本の伝統を強調する一方で、各所に西欧文化をうまく取り入れているところも面白い部分です。

また、この作品は、音楽の使い方が優れていて、各場面の登場人物の心理描写を効果的にしています。例えば、ヴァイオリン曲のラフ「カヴァティーナ」の使い方はとても上手いですし、演奏もゆったりしたヴィブラートを効かせているのが、映画の雰囲気に合っています。

作品の終盤、原節子の演じる紀子が嫁に行く日など、音楽はまるで葬送行進曲のようで、やりすぎではないかというくらいの暗い音楽ですが、これであれば紀子の心情は誰でも理解できますし、本来ハッピーな場面に暗い曲という異化効果も面白いです。

現代では、登場人物の親子関係や紀子の心情など、ストーリー上、理解し難い部分が多くなっていることは確かですが、表面的な筋書きを超えて、芸術作品として高い価値を持つ作品であると思いました。

「小津4K」ではデジタル修復に関するスペシャル講座も!

今回の上演期間では、映画の上演後に何回かトークショーが行われ、香川京子さん、有馬稲子さん、若尾文子さんがそれぞれトークショーを行いました。筆者は有馬稲子さんの回だけ行けたのですが、やはり出演された方のお話は貴重です。他の回も行きたかったですね・・。

その他、小津4Kでデジタル修復に携わった株式会社IMAGICAの社員の方2名によるスペシャル講座(座談会)も映画の上演後に行われました。こちらにも行くことができ、貴重な話を聴くことができました。

IMAGICAは、今回上映された全作品のリマスターに携わったとのことです(ただし「晩春」は工程の一部のみ)。

デジタル修復の工程を詳しく聞くことができて、とても面白かったです。古いフイルムは酢のような匂いがするとか。

また、一番情報量が多いのはオリジナルのネガだということですが、古いフィルムの中にこれほどの情報量が詰まっているということは驚きでした。実際の4Kデジタル修復版を見れば明らかですが、オリジナルではこれほど画像が綺麗だったのかと思うほどです。

4K修復では、コンピューターでゴミ取りをしたりするのですが、最終的には人間の目視でチェックするそうです。また、色調や画面の枠などは人間が調整するそうで、当時の撮影に関わった人に話を聞いたりして調整していくそうです。デジタル修復といっても、人間の関与する部分がかなり多いと感じました。最終的に決めて調節するのは人間ですからね。

IMAGICAの方が、「家でDVDで見るのも良いが、4Kでは映画館のスクリーンで見たときに最も美しく見えるように修復しているので、是非映画館で見てほしい」という話が最後にありましたが、本当に、4Kの画像の素晴らしさは、スクリーンで見て実感しました。是非時々小津4Kを映画館で上映してほしいですね〜。

このスペシャル講座では、東京物語のリマスター前と後の映像を比較した珍しいプロモーション映像も見ることができました。

リマスター前の映像は、いかにも昔の映画という感じでボケていて、画面がガタガタ揺れていて、ノイズだらけなのですが、リマスター後の映像は、画面が鮮明で服の模様もはっきり分かるし、役者もつい最近演じたのではと思うくらいにイキイキとして生命力を感じさせます。

修復後は、昔の名画の汚れを洗浄したら当時のような鮮明さを取り戻した、というのと似たくらいのインパクトがあります。あの古い画像の奥にはこんなに鮮明な映像が隠れていたのかと思うとなかなか感慨深いです。

この4K映像で見てこそ、小津の映像演出の意図が分かるというものです(小津のオリジナルと今回のリマスター後の映像が全く同じとは言えないものの)。

映画館で見ていて、画面の陰影がより鮮明に表現されたことや細かい部分までよく見えるようになったことは驚きでした(当時のフィルムにこれだけの情報量が入っていたということ)。

ですが、特に、役者の肌の質感がよく映っていることに驚きました。それに、スクリーンなのでドアップになるのは当然ですが、役者の顔がずいぶんテカテカしているなあと思いました。

これに関して、NHKのニュースが珍しく小津を取り上げていて(今回の小津4KのPRもあるのでしょうが)、松竹で小津の演出風景の写真が見つかり、ワセリンと綿棒で役者の汗や涙を表現していたことが分かった、とのことでした。

役者の顔のテカリもちゃんと小津の計算だったということですね。これは今回4Kで見て気がついたことでした。小津の映像へのこだわりは半端ではなかったということですが、本当に細部にまで徹底した絵作りをしていたのですね。

また、映画というのは映画館のスクリーンという大画面で見られるものだということも、映像美を引き立てる大きな要素です。テレビ画面で見ても、小津作品の映像美を堪能するのは難しいと思います。

小津作品は一つの世界観!大根演技や棒読み台詞の方がマッチする?!

小津作品は徹頭徹尾小津安二郎の作品であって、役者はその作品を構成する「道具」のように見えます。小津作品では、他の一般的な作品で求められるような、役者の演技力とか個性とかは不要で、かえって邪魔になります。

笠智衆が小津に「演技は能面で行ってくれ」と言われたのは有名ですが、小津作品は能のような面があり、あんまり演技演技した演技は合っていません。だから、小津作品では役者が固定化している方が世界観が統一されて良いのだと思います。

小津作品を見ていると、笠智衆の棒読みのような台詞回しがクセになってしまいます。これが、妙に役者根性で上手く台詞を言ってしまうと、小津作品らしくなくなってしまいます。

小津作品には、大根のような演技と棒読みのような台詞回しの方がマッチしているのです(しかし脇役は上手い役者が固めるのがいかにも昔の映画)。

なぜなら、小津作品は一つの世界観だからです。なので、役者の演技が下手とか棒読みとか批判するのは、小津作品に限ってはナンセンスなのだと思います。

さて、「晩春」の4K修復は、クラウドファンディングを使って資金を集めた、とネットで見ました。他の作品はどうなのか知りませんが、こういう試みに使われるなら、クラウドファンディングも良いですね。

本来は、このような古典的な名作は、クラウドファンディングを使わなくても修復されてほしいものですが、古典作品というのは収益的には割りに合わないのでしょうかね。

4Kでこれだけ蘇るのだとすると、他にも修復してほしい古典作品はたくさんあるでしょう。古いフィルムの経年劣化が進んでしまうと、修復も困難になってしまいます。これらがしかるべく修復されて本来の価値を再認識されて、後世に伝えられることを願います。

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